催眠療法の概略
魔術のように思われがちだが、心理療法の中では最も歴史があるもので、その原点ともいえる。
2001.8.9 城山 雅広
催眠の歴史
催眠の歴史は古い。今から数千年前から宗教、医療の分野で用いられていたといわれている。近代の心理療法として催眠を始めて利用したのは18世紀後半に活躍したウィーンの医師F.Aメスメルである。彼の方法はその名をとってメスメリズムと呼ばれた。当時は催眠現象が動物磁気によって引き起こされるとされていたが、その後J.AシャルコーやA.Aリエボーらとの論争の中で、その考えは否定され、催眠の効果は暗示によって生じるものであるとの考え方が広まった。シャルコーの弟子であったS.フロイトは最初催眠療法の研究をしていたが、その後自由連想法を編み出し、現在の精神分析へとその考えを発展させていった。
フロイト以後目立った発展のなかった催眠療法は第一次世界大戦をきっかけに再び発展を始め、J.Hシュルツによる自律訓練法の開発、E.Rヒルガードの実験的な研究、近年ではM.Hエリクソンの催眠法などの発展が注目される。
催眠とは何か
催眠ほど偏見や誤解を招きやすい心理療法はないだろう。マスコミではおもしろおかしくショーアップされて見せ物となっているし、魔術や呪術のたぐいと同一にみやれていることも珍しくない。その存在さえ疑う人々も多い。しかし、催眠療法はれっきとした科学的な裏付けのあるアプローチなのである。
催眠は「言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態」であると定義される。睡眠と類似しているが、異質のものであり、強いていえばウトウトしたまどろみ状態に近い。催眠中は被暗示性(暗示に対する対応のしやすさ)が非常に高くなるので、覚醒しているときに比べて運動、知覚、思考などに異常性が容易に引き起こされる。なお、この意識の変容状態を催眠性トランス状態という。また、催眠状態の特徴として、イメージが活性化されること、心身のリラックス状態(アルファ波8〜12CPS)が得られること、注意集中が受動的でかつ狭くなることがあげられる。
催眠状態に誘導するためには暗示が重要な役割を果たす。暗示には他者暗示と自己暗示があるが、催眠療法では通常、催眠誘導のために決まった一連の暗示系列がある。それに従って誘導することによって、次第に催眠深度が深まる。
催眠療法の技法
催眠療法には多くの技法がある。それは催眠そのものがもつ治療的要因を最大限に利用しようとするのもと、他の療法の中に催眠を組み込み、その療法の結果の効果を高めようとするものに分けられる。ここでは前者の代表的なものを紹介する。その一つは暗示によって症状を除去しようとするものである。直接暗示の場合は、例えば車酔いのときに「もう車には酔わない」という暗示を与える。間接暗示の場合は、夜尿症の子に「おしっこがしたくなったらぐっすり眠っていても目が覚める」というような暗示を与える。次にイメージを利用する方法がある。これはメンタル(あるいはイメージ)・リハーサルと呼ばれるものが有名である。覚醒時には不安や緊張で適応的に遂行できない行動を、催眠中にイメージの中でうまく遂行できるという体験をさせるものである。スポーツ選手の上がり対策にも用いられる。また維持催眠療法は長時間の催眠で十分なリラックスを体験させ、治療効果をあげようとするものである。
コラム・・・EMDR
「眼球運動による脱感作と再処理法(Eye Movement Desensitization And Reprocessing)と呼ばれ、F.シャピコによって1989年に初めて初表された療法である。眼球を左右水平方向に急速に(1秒間に2往復程度)リズミカルに動かす運動を行うことによって、過去の否定的な記憶を再処理し、否定的な感情を減弱させる(脱感作)方法。外傷体験に伴う精神障害や不適応問題の治療に大きな成果をあげている。治療機序としては、神経心理学的メカニズムと認知的な再処理のメカニズムが考えられている。
参考分献 有斐閣双書 「臨床心理学キーワード」 坂野雄二
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