気付きと成長
2002.2.15
三井 清滋
人は、何かに気付き、感動を得る事によって成長を遂げていきますが、気付きがどの様な時、どの様にして生まれるのかその効果について考えてみたいと思います。
1 気付きその一(正常意識時)意識的に気付きを生む
一般的に気付を受け入れるため必要なものは、理性(思考、判断、学習、推理)、動 作そして五感の作用と思います。気付きの在り方は様々な原因によるものですが、常に問題意識を持つこと、何かを求めると言う姿勢が必要ではなかろうかと思います。 そして、それが考えることであったり、行動する事であったり、五感が作用することにより、問題に対応し、関連作用して、多岐にわたる道筋を経て気付きを生じるのだと思 います。なぜならば、常日頃から問題意識を持ち模索している者は、現状から抜け出そ うとしして、答えを得たい、解決したい、その為にはどうすれば良いか、何か良い方法 はないかと常に前向きに対処しようとし、身体の内外のあらゆる方向へアンテナを張り 巡らしているために、何かを感じた時に自分が求めていたものや、新しいことにハタと思い当たり、それが気付きを生み、感動となって現れるのだと思います。
この気付きを得るためには、その前提として何らかのシグナルが発せられてきていますので、如何にこのシグナルを受け止めるか、受け入れることが出来るかが肝要だと思 います。しかし、この気付にたどり着く者はまれであり、大多数の者は何かを感じたままで終わってしまうのではないでしょうか。それは、向上心を持ち日常生活を送ってい る者が少ないのだと思います。問題意識を持っている者は、何かの瞬間に求めているも のを引き込む力が備わってくるのです。
すべてに消極的、あるいは、現状を維持し、目先のことのみにとらわれる者は終始受け身に徹し、何かを感じるか、または、感動と言う情感の変化のみで終わってしまい、気付く事が出来ず、常にその域を脱することなく、足踏みを続けることになるのです。
多くの場合には、外因が加わる事によりそれは気付きへの導入となり展開へと進み、結果として気付きを生じる事となります。気付きの根本は、自らの模索による結果の発生 と、外部からの働きかけによる外的要因による結果の発生と言うことではないでしょうか。いずれにせよ気付くと言う結果は、自らの力によるのです。
私は永きに渡り柔道と関わっていますので、柔道修業と気付きについて少し述べてみたいと思います。省みますと、修業当初は誰もがそうであるように、強くなりたい、ただ強くなりたいとの思いで道場に通い、言われるままにがむしゃらに稽古に汗を流し、へとへとになるまで自分のための稽古に明け暮れていました。この時代は 得意とする技を作り、その技により相手を投げ飛ばしたい、投げられたくない、試合にでて勝ちたい、ただそれだけを念じて稽古に集中し、攻撃面に重点を置き励んでいたように思います。
しかし、柔道は相手を必要とし、各々の体格、体型、運動能力、性格等々がすべて異なる者を相手としての攻撃防御の繰り返し、相手の隙をぬって技を仕掛けなければならない難しさがあります。効果的に技をかけるには、崩し、作り、掛けの動作が一致しなければ正確な技には入れません。「崩し」と言うのは、相手は投げられまいとして重心を保ち安定した姿勢となっているのですから、その防御姿勢を不安定な姿勢にする事を言い、「作り」とは、自分の姿勢を仕掛ける技に適した形、すなわち技に入りやすい姿勢にすることを言い、「掛け」とは、一気に技の形に入り、相手を意とする方向に投げつける事を言います。これらの諸動作が一挙動のうちに行えなければなりません。
また、仮に目的とする技に入れたとしても、相手を投げつけることが出来るかと言えばそれは疑問です。1つの技、例えば、双手背負投げをかけるにしても相手との間合い、崩しの方向、引き手や釣り手の方向、軸足の位置、重心の高低、投げる方向、力の入れ 方、捻りの度合い、スピード等々すべてが異なるのです。
同じ技で、ある者は投げつけることが出来たとしても、別の者に前者と同じように技を施しても技の効果は現れず、効かないからと言って何度も同じ事を繰り返していては結果は同じです。そこで同じ行為を繰り返しながらも投げれる相手と投げられない相手は どこに違いがあるのか、技のかけ方、どこをどの様にすれば意とする技にはいることが 出来、投げる事が出来るのかと考えながらの稽古が必要です。言われるままの稽古での上達には限りがあります。常に考える稽古を続けるうちには投げれなかった相手も投げ れる事が出来、投げれたことの感動がこのようにすればいいのだなと気付となって現れ成長(上達)していくです。この終局的な気付きに至るまでにも勿論小さな気付きはあります。
万人に共通する技としては、「形」と呼ばれるものがありますが、形は、定められた手 順と方法で技を習う為のやり方です。各個人の身体能力には差異がありますので、形を 基本として自分の身体能力に応じた技にしなければなりません。技そのものを如何にとらえるかとの気付きがなければなりません。
上達するにはどれ程の気付きが出来るかと言うことに他ならないと思います。
また、強くなるためには防御面である受けも強くしなければならないのは当然ですが、当初は格好の良い「投げる」事のみに気が向き、防御の重要性にまで気付いていませんでした。受けについても同じで、相手により、技により、どの様な受けの体勢、動き、 捌き等をするかを考えての稽古をせねばなりません。そして苦手な相手の技を受け切ることが出来た時(投げられなかった時)の喜びは大きく、このように受ければ良いのだと1つの大きな気付となり、さらなる感動を生むものです。より多くの者との稽古によ り、それぞれの受け方が体得出来るのです。修行はこの繰り返しです。攻撃、防御共に 如何に多くの気付きが出来るかが強くなる極意と思います。考える稽古、日々の精進、努力が必要です。
この攻撃防御を続けるうちに精神面、心の修業も重ねられ、相手が居て初めて稽古が出来、技や能力を高めることが出来るのだと気付き、相手に敬意を払い、思いやる心も芽 生えます。また、組み合うことによって人間性もが分かるようになってきます。
稽古は礼によって始まり礼によって終わりますが、この礼は相手の年齢、段位、男女の別に関係なく相手に敬意とありがとうの感謝を込めて行うのだと気付きます。礼のき ちんと出来ない者は柔道修行の精神を理解せず相手の存在に気付いていない者です。
高段者になるに従い自分だけと言う気持ちはなくなり、共に強くなろう、共に良くなろうと変化し、人間的にも成長し、世を補益できる社会人となれるのです。 これが精神 面の気付きであろうと思います。
柔道修行における気付きの一部を述べてみましたが、日常生活に於いても同様のことが言えます。社会の営みの中で人々は様々な嫌なこと、例えば、思いこみ、悩み、不安、苦しみ、怒り、悲しみ等を持っていますが、ほとんどの場合は、自らが背負い込んでし まいまたは、相手に矛先が向いてしまいます。これらが蓄積されてストレスとなって現れ、心身症、神経症、うつ病、自律神経失調症等の不健康な身体となってしまいます。そこで、これらのストレスから逃れるためには、早期の段階での気付きがなければなり ません。「何故いらいらするのか」、「何故怒りっぽいのか」「何故悩むのか」「何故悲し むのか」「なぜ憎むのか」等それぞれについての気付きが必要です。自分だけではない、 誰もが口には出さないが多かれ少なからず持っているものだと考えれば気は楽になり、現状を出発点として永年の生活から染み付いた自分だけの考えや、思いこみ、物事の処 し方、ライフスタイル等を変えてみる必要があります。そこに気付きが生まれ、さらには感動が生まれるのです。その為には、読書をしたり、人の話を良く聞き、または、人 の振り等によりヒントを得、それを受け止め、受け入れる気持ちが必要です。それによ り、考え方や行動を変えてみようとの気付きが生まれるのです。常に同じ生活パターンでは同じ結果しか現れませんが、生活習慣やものの見方、考え方を改善する事で好結果 を得ることが出来るのです。感動を得る為になすべき事は何か、または、相手に感動を与える為には何をなすべきか、どうすべきかと、すべき事に気付くことで気は軽くなります。 この気付きを如何 に早く、しかも多くの気付きを得れるかと言うことが以後の人生をより良くし、人間性 を高め、幅を広げていくものと思います。
2 気付きその二(変性意識状態時) 潜在意識が気付きを生む
私たちが体得しょうとしているリラクゼーション整体は、技術そのもののみならず、
技術を施すための考え方に重きを置いています。それが、「TAT法」タッチング・アウェアネス・テクニックと言う理論です。触れて気付くと言う考え方です。ただ単に表見 的な体の痛み、歪みを調整、矯正するといったことにとどまらず、奥に潜む心理的な原 因を緩和させようとする考え方なのです。その極意は、普段はあまり活動していない潜在意識を甦らせて、感情や本能を働かせて気付きを生じさせ、感動を得させると言うことです。
潜在意識を機能させるためには、変性意識状態としなければなりません。変性意識状 態とは、意識レベルが低下するとうっとりとした心地よい気分となり、普通の意識状態 と異なる状態となります。 変性意識状態では理性や知識の働きは弱まり、判断力も鈍 ってきていますが、普段では気付いていない意識の奥に潜んでいる心の働きを持つ潜在意識と言う意識が浮かび上がってきます。
この潜在意識は、私達が生まれてから現在に至るまでのそれぞれの人生において経験したすべてのことを記憶しているのであり、意識の方では忘れ去っていることでも潜在意 識と言う意識にはすべてのことがそのままの形で記憶、保存されています。活動そのものは常に休むことなく働き続けているのです。この潜在意識の強い働きである笑い、悲しみ、怒り、食欲、性欲と言った感情や本能は私たちの行動を支配し、知らず知らずのうちに動かしているのです。
通常の意識状態下では意識することによって各種の行動を起こしているのですが、何 度意識してやってみても失敗したり、出来ないことがあります。それは、過去に失敗し たという記憶が無意識のうちに頭をもたげ、やろうとする意識を押さえ込んで、自分に は出来ないのだと同じ失敗を繰り返してしまうことになるのです。
例えばあがり症の人は、過去に失敗した経験が多く、大勢の人前であがってしまって失 敗してしまった。数回失敗したと言う記憶が条件反射として甦り、今度はあがらない、 失敗しないで頑張ろうとしても、同じく失敗してしまい、あがってしまう結果になってしまう。潜在意識の力です。
よく言われなすが、潜在意識を氷山に例えて、海面に浮かんでいる部分が意識であり、水中にある部分が潜在意識であり、潜在意識が大部分を占めているのです。 笑い、怒 り、悲しみ、食欲、性欲と言った感情や本能は自発的に生じてきますが、これらは潜在 意識の働きと言われており、潜在意識が意識の中で占める部分の多いだけ潜在意識の力 は強いのです。この潜在意識と言う意識を活動させる事が必要です。
私達の行っている整体の目的は、触れることにより相手の感情に訴え、潜在意識を甦らせて、心を働かせ、気付きを生じさせ感動を得させる事なのです。気付きがなければ なりません。この方法は、ただ単に腰の痛みを取り去る、肩の痛みを軽減させる、歪み を調整することに主眼を置かず、さらに一歩踏み込み、相手の体に触れることにより相 手の心に入り込み、何を要求しているのか、何を欲しているのか、と言うところにまで
集中して行う内に、相手の心情を自分の中に共感享受すると言った手法です。それによ り相手の心情を満足させると共に何かに気付かせる事につながります。
原因が精神的ストレスによる場合や、習慣化している等により体の緊張、コリ、歪みに よる不快感や痛みが生じ、異常を訴える者は、痛みが消え、または、うすれるに従い、 気持ちの良いやすらぎ状態、すなわ変性意識状態に陥って、心を開き、潜在意識が湧き 出し、ストレスのなかった頃の記憶が甦り、なんでこの様なことで悩んでいるのだろう との感覚が生じ、豊かな気持ちになってきて、自然と痛みも軽減するのです。
また、術者本人も、相手が何処をどの様にしてほしいのか、何を求めているのか、さらには心情までも知ろうとして施術すれば、相手の事のみに集中する結果、次第に変性 意識状態に陥り、人間本来の感情が芽生え、自分自身を含めて相手の内面的なものまで も気付いてくるものと言われています。
触れる行為が相手の感情、思考、想い、印象を左右しており、触れる事によって変性意識状態にして、何かに気付かせること事となり、それが感動を生み、ストレスの元となっている不安定材料を取り去ってしまうと言うことです。
勿論「TAT法」による整体を行うにはそれに応じた手順や方法はあります。相手の体に触れるにも触れようがあります。整体の技術(基本)を正確に体得する事により、 如何に相手に応じた技を使うかと言う事です。言うなれば、相手の気持ちを感じ取り、 技を上手く表現して、相手に受け入れてもらう事の出来る技術を持ち、使わなければな りません。確かな技とするために体得すべき事は次の通りです。
(1) 形の体得
まずは形から入ることが大切であり、人間の体(肉体)や感受性等は一人一人異なっており、各々の特徴を早期に把握し、相手が望み、要求している心を満足させる為に、技を施す様心がけなければなりません。その為には技の手順や方法を組み立てた 「形」をしっかりと身に付け、技の理合(理屈に合うこと)を理解しておかなければなりません。また、相手に応じたとるべき体勢、技の使用目的に応じた姿勢、相手を受け止めるための心構えも自分の形として持たなければなりません。
(2) 間合いの取り方
相手との間隔、距離、さらには、技そのものの動作のま間(早くやったり、遅くしたり)のことを言い、通常この間合いが遠いと親近感がなく、近ければ親近感は増しますが、近い程良いかと言えば、一概には言えません。動作の早、遅もしかりです。 しかし、整体に訪れる者は、最初から触れられることを容認してきているのですから信頼関係の確立は容易なはずです。相手に不快感を生じさせない間合いを保ち、反応を確認しつつ、相手との一体感に心がけ、しかも効果ある(相手が受け止めてくれる) 技が施されるような間合いに留意しなければなりません。
(3) 圧の加減
相手に与える圧力は、相手が受け入れ、緊張しない程度の圧でなければなりません。圧のかけ方は、相手の状態により、自分の重心の移動幅の大小により調節して、相手が心を開き、信頼を寄せてくる様な圧の加減をしなければなりません。
(4) 呼吸のリズム
相手との一体感を生む為には、呼吸を合わせて動作を行うことです。肉体は呼気の時には弛緩し、吸気の時には緊張しているものですから、呼気時に合わせて技を施せば効果は現れるのです。相手の呼吸に合わせて一定のリズムで動作を行うことです。
(5) スムースな体移動
圧をかけるには重心の移動が重要ですが、移動しながらの圧のかけかたは、ギクシャクせず、間隙を生ぜず、スムースに移動を行うことで、正確に的を得た技が施されると共に、相手の心は安定し、信頼関係もより深まるのです。
相手が何を求めているのか、その心を分かろうとし、感情をくみ取ろうと集中すれば、どう処さなければならないかが気付きとなって現れ、相手に対しても自分自身の心を感じ取ることが出来るのです。気付きは心の奥に潜む原因を緩和させ、心を開かせるとに共に人間を成長させる原動力です。
参考文献
・TAT理論(タッチング・アウェアネス・テクニック) 加納健一 城山雅弘
・催眠術完全マニュアル 武藤安隆 日本文芸社
![]()
![]()


